インプラントがダメになったら

最近、インプラント治療の相談が増えています。

インプラント治療は、確かにすばらしい方法であり、当院でも25年以上前、とても早い時期からインプラント講習会に参加し始め、入れ歯治療とともに、多くの患者さんにインプラント治療も行ってきました。

しかし、すべての症例にとってインプラントが最良の治療方法ではない、と私は考えています。実際に長期間にわたってインプラント治療も入れ歯治療も行ってきて、メンテナンスを行いながらそれぞれの長期の経過をみてきたから、そしてまた長年にわたり、千人を超える多くの方の悩みの相談を受けてきたからこそ、入れ歯にするかインプラントにするか、治療方法の選択には、様々な要因を考慮しなければいけないとの思いが、近年ますます強くなっています。

そして、多くの歯科医院で、インプラント治療が普通に提案され、一般に浸透してきたこの数年、インプラント治療や、その治療後について、相談件数がさらに増えてきました。

インプラントは素晴らしい治療です。が…

インプラント治療は素晴らしい治療法であり、成功率もかなり高く、多くの患者さんがインプラントによって快適な生活を取り戻しています。一般に、上顎のインプラントの成功率は90%、下顎の成功率は95%と言われて、その成功率はかなり高いものと言えます。 その一方で、インプラント治療を長期的に良好に保つためには、歯科医師の技術や経験はもちろんのこと、患者さんの顎の骨の状況、全身状態、喫煙歴、歯周病、メンテナンスに通院できるかどうか、口腔ケアの状況、年齢など、様々な要因が関わってくることも事実です。

100%はどこにもない

つまり、どんな治療にも言えることですが、様々な要因によって成功率は左右されてしまうものであり、インプラントにすれば、全ての症例が長期間にわたって100%成功するというわけではありません。 さらに、歯科治療すべてに言えることだと思いますが、すべての治療が一度治せば絶対に壊れないということにはならず、インプラントでもそれは同じことだと心にとめて治療法を選ぶ必要があると私は考えています。

インプラントは素晴らしい治療法で、私も自分の家族や親類に(インプラント向きのケースであれば)インプラントを勧め実際に埋入していますが、インプラントがすべての症例で最良であるとは考えていません。 インプラント治療を選択する場合は、インプラントの素晴らしい恩恵の一方で、再治療になった場合の治療負担の大きさや、症例によっては再治療が難しくなることなど、将来ダメになった時の対処法について、他の治療よりも慎重に考えることが大切だと考えています。

インプラントの失敗例に学ぶ

それでは、インプラント治療の失敗とは何でしょうか。  インプラント治療は外科的な処置になるため、一般の外科処置と同じように処置後の問題が起きる可能性はゼロではありません。 インプラントに特徴的な失敗として、ずっと以前は、インプラントが折れて、骨の内部に埋入したインプラントの本体だけが残され、その除去に大きな処置が必要になったということがありました。

青い線から白線まで炎症によって周りの骨が失われて、インプラントが不安定。

他院にて埋入後、抜け落ちたインプラントを持参して当院を受診。

真ん中のインプラントのみ元の青い線から白い線まで骨が失われている。

やはり他院で埋入したインプラントがぐらぐらで来院。簡単につまんで取れた。

しかし、最近のインプラントの場合は、形状や術式、治療前の診断などの進化により、除去ができずに大変な思いをしたということはほとんどなくなってきていると思います。負担の少ない除去用の器具機材も開発されています。  その一方で、周囲の粘膜が炎症を起こしたり、埋入後のインプラントがぐらぐらして取れてしまったり、インプラントの上に作った補綴物が破損したり、といった相談はインプラントや術式の改良が進んできても、残念ながら減っていません。

もちろん、しっかりとしたメンテナンスを行いながら、早めにトラブルを見極めて対処したり、場合によっては周囲の骨の喪失が起こる前に早めにインプラントを一度除去して再度埋入する、などの対処が適切に行われている歯科医院も少なくないと思います。  しかし、いろいろな要因で対応が遅れて、周囲の骨の喪失が大きくなり、再度の埋入が困難になるケースも出てきています。

歯科医師によっては、他の部位から骨を移植して、インプラントを再度埋入する方法を取ることもあるかもしれませんが、そうした大がかりな治療は受けたくない方や、長期的なリスクが心配な方、もうインプラント以外の方法で治療をしていきたいという方も大勢いらっしゃいます。

3つのインプラントの失敗相談

「もう一度インプラントにすべきか、入れ歯にした方が良いか迷っている」 「インプラント治療は、もうやりたくない」 「骨が少なくなって、インプラントはもうできないと言われた」 失敗後の相談は、このように3つのタイプに分かれます。

  • もう一度インプラントにするか入れ歯にするか迷っている方
  • インプラントはこれ以上やりたくない方
  • インプラントにしたいけれど、できないと言われた方

インプラントか…入れ歯か…

当院でも、インプラントが最良、というケースでは、患者さんにメリットと将来的なリスクを説明して、インプラント治療を提案することは少なくありません。  しかし、インプラント治療を行う場合は、インプラント治療を行う箇所以外の歯の状況をも考えていくことが大変重要です。

治すべき治療部位だけの問題ではなく他の歯も問題を抱えている場合は、将来的に次々とインプラントの本数が増える可能性が出てきます。

他の歯が使えなくなった時に大がかりな再治療が必要になるようなお口の状況の方も、長期的観点からインプラントだけで考えるのではなく、入れ歯治療との比較検討も必要です。

インプラントでも、入れ歯でも、「治療を行うことは可能」、な場合が多いのですが、どの方法が長期的に良好な状態を維持できるのか、将来起こりそうなリスクは、ダメになった時にはどうするか、など、検討すべきことがたくさんあります。

最終的には、患者さんが、何を大事にしたいか、今後の生活スタイルをどうしたいか、仕事や生活上どうしても譲れない点、5年10年20年後の生活環境、といったことなどから、治療法を選択していくことになりますが、他の歯が悪くなる可能性が高いのかどうか、そして、もしも他の歯を抜歯することになった時に取れる対応方法は何か、などをしっかりと説明し、歯科医師が患者さんと共に考えていくことが、インプラントか入れ歯か治療法を選択する重要な観点だと思います。

インプラントの力、そして、インプラントの限界

インプラントは、他の歯に頼らずに自立できる、という点が、他の治療に比べて大きなメリットです。さらに、審美性、咀嚼効率、違和感の少なさ、なども大きなメリットです。  しかし、埋入する骨の状況、全身状況、メンテナンスに通える体力や環境、インプラント以外の歯の状況、などによって、必ずしも最良の方法ではないと思われる場合もあります。

他の歯がダメになり、次々にインプラントが増えるということもあります。
 他の歯を抜くことになった場合、大がかりな治療のやり直しが必要になることもあります。

インプラントができなくなった場合は・・

インプラント周囲の骨の喪失などにより、再度のインプラント治療が難しくなった場合、入れ歯による治療を行うことを検討します。  入れ歯で噛めるのだろうか、話をしていて落ちないのだろうか、違和感はどれくらい続くのだろうか、など、いろいろ心配されている方は少なくないと思います。

しかし、治療前の検査を行い、長期的な修理も考慮した設計を行い、丁寧に手順を追って治療を進めることで、良好な結果を得ることが可能になってきます。  なにより、入れ歯は、修理を考慮した形態での作製をすれば、インプラントに比べて、何かあった時に修理の対応がしやすくなり、長期の負担や不安が少ないというメリットがあります。

ある患者さんは言います。

「インプラントの時は、いつか取れてしまうのではないか、といつも不安がありましたが、入れ歯になって、その心配が無くなったのが、何より安心です。入れ歯の弱点を補って余りあるメリットです。」